知らないことをやってみるブログ

世の中には、知らないことが多すぎる。アラフォー妻子持ちがなんでもやってみようというブログ。

小説(小話?)書けるかな

どうも、大人迷子です。

随分昔にネット上で見た一つの書き込み。
たかだか一行のそのレスが印象に残ってまして。
何となく書きたくなったのでノリで書きます。

多分に読み味がラノベ風味だと思いますが。
お目汚し失礼を。


けたたましく電話のベルが鳴っている。

「……うるせぇ」

寝起きの回らない頭で呟く。
いくらなんでも五月蠅くて寝られやしない。
そう言えば目覚まし時計もうるせぇからぶっ壊したっけな。しかし電話に関しちゃ壊すと後が面倒だ。だいいち「この電話」を知っている相手だ。出ないわけにはいかない。

仕方なくくたびれたソファから身を起こす。
くそったれだ。明らかに二時間は寝たりない。だいたい人が寝てる時に電話してくるなんて非常識じゃないか。
通話ボタンを押すと聞きたくもない声が聞こえる。

「ようマスター」

「…マスターは止めろ。」

裏の世界じゃちょっとは名の通った俺を相手にマスター呼ばわりするのはコイツだけだ。勿論この場合のマスターってのは敬意からじゃない。長いこと仲介役をしているせいかどうにも馴れ馴れしい。

「また寝起きか、もう昼前だぞ?」

「うるせぇ。昼前なら昼寝で間違ってねぇだろ」

分かった分かった、とやる気のなさそうな返事。
実に舐めきった態度である。俺が自分自身のことでキレてどうこうするわけがないと分かっているのだ。この「分かってる」みたいな感じも鼻につくが、まぁいい。
仕事の内容は良くあるヤツで、あこぎな商売している成金野郎の始末である。楽なもんだ。
……とはいえ、

「一応言っとくがな」

「『殺すかどうかは俺が決める』だろ?」

やはり分かったふうで、鬱陶しい。

仕事をするうえでどうしても譲れないことがある。
「飽くまで決定権はこちら」というのがそれだ。まぁ結局最終的には全部受けているんだが、それは「俺が受けているから」であって「お前らに依頼されたから」じゃない。
馬鹿だ幼稚だと言われようが、大切なことなのだ。
俺はお前らの奴隷じゃない。

「だが今回の依頼人はせっかちでな。やるかどうかは今日中に決めてくれ」

なにが「今回は」だ。一日以上猶予のあったためしなんかないだろう。まぁ仕方ない、そういう業界だ。「いつでも良いので殺して下さい」なんてノリで頼むもんじゃないのだ、殺しなんてのは。

「…明日の昼に例の店で。返事はその時にする」

この返事はいつものことだ。「今日中に決めろ」ってのに「返事は明日」じゃあ、さすがに「やらない」なんてのは通らない。

「それじゃあよろしく頼むぜマスター……おっといかん。よろしく頼むぜbation」

電話の最後にわざとらしく間違えて訂正するのもいつものことだ。
泣く子も黙る暗殺稼業のbation、それが俺の裏の名前だ。裏の、と言ったが本名なんてもう何年も名乗ってもないし呼ばれてもいない。もうどっちが裏だか分かりゃしない。

……ところでなんで俺がマスターって呼ばれるか分かったか?マスかき野郎ってコケにされてんのさ。まぁそんなことでブチ切れたりはしないがね。


寂れた店だった。
というか汚い店だった。
寂れた裏通りの、さらに寂れた奥にあるその店が今も営業中だとは誰も思うまい。

「たが酒は上等なモノを出す」

高そうなスーツを着こなした老年の男が言う。
事実、手にしたグラスからは実に芳醇な香りが漂う。
グラスを左手に、両切りのやたらと重い煙草を右手でふかす。

「だが食い物には期待するな。いくら乾き物とは言っても、あそこまで乾いてりゃあ最早別物だ」

隣に座った若い男は所在なげにはぁ、と呟く。
見渡して、見れば見るほどに汚い。
店内の空気ごと汚い気さえする。

「…本当にこんなところに?」

「あぁ、アイツはここ以外じゃ人に会わん」

「それはまた、」

どうして、とは聞けなかった。
ギイィ、と情けない音を立てて店の入り口が開く。
注視するうち、ぬぅっと冴えない男が入ってくる。
冴えない、と言うか薄汚い男だった。
隣に座る老年の男よりも余程この店に似合っている。

無精髭は言うに及ばず、切るのが面倒だから伸びただけという風情の長い髪を無造作に後ろで結んでいる。着ているヨレヨレのトレンチコートは雑巾よりはいくらか奇麗だろうか。
少しは身なりに気を遣えば人並み程度にはなりそうなものだが、根本的にそういうことに興味が無いのか、見たまま無精なだけなのか。

「こいつが……?」

老年の男は問い掛けには応えず、

「遅刻だぞ、マスター」

ニヤニヤしながら呼び掛ける。
若い男が絶句して総毛立つ。
この冴えない男が本当にbationなら、界隈で知らぬ者はない凄腕の殺し屋だ。その名を笑うようにマスターと呼んだ者は一人残らず殺されたと聞く。
焦りを余所に、相手は僅かに顔をしかめただけで腰を下ろす。

「…マスターは止めろ。オヤジ、牛乳をくれ」

「またそんなガキみたいなもんを」

事情を知らなければ普通のやりとりなのだろう。
しかし片や凄腕の殺し屋で、片や殺しの仲介としてこの道20年のベテランだ。老年の男について言えば、かつては自身も殺し屋で「死なない男」とまで言われた凄腕でもある。
そのような事情を知っていれば冷や汗もののやりとりであるが、場の空気は驚くほど弛緩している。
さしものbation も死なない男にかかれば若造だと言うことなのか。

「そいつは?」

「見習いだ。自力で俺を探し出したんだ、若いが見所あるぜ」

bationはそうか、と応えたきりそれ以上は何も触れない。外見同様に、他人にも頓着しないと言うことなのか。
それきりその話はお仕舞いとばかりに仕事の話に入る。当然だ。二人を繋ぐ接点はそこにしかない。

死なない男の仲介をbationが受ける。
今回も仕事は問題なく成功するだろう。
このままなら。


ふう、と息をついてbation は目を覚ました。
囲まれている。
隠れている場所や人数を正確に把握することは出来ないが、肌を刺すような殺気は目を覚ますのに十分なものだった。
いつかこんな日がくるのでは、とは思っていた。

凄腕の殺し屋、なんてものは自分が依頼する分には良いが、狙われる可能性を考えると厄介でしかない。つまりこれは、何かしら腹に痛いところのあるヤツの手引きだろう。
これまでの依頼人の誰かだろうか。
…とはいえ仲介役がいないと、どうにもそのあたりは判らない。問題の仲介役はといえば、ここのところは音沙汰無しだ。

考えても始まらない。
bationは手持ちの武器を思い浮かべる。
スナイパーライフルが一丁と、拳銃が二丁、弾はそれほど多くない。アジトは遠いが、こんなこともあろうかも補給用のポイントはあちこちに用意している。まぁ問題ない、と短く息を吐く。
と、傍らの電話が鳴る。

「…よう、マスター」

聞こえてきた声は、苦悶に満ちていた。
つまりそういうことだろう。

「……誰だ?」

「…店で会わせた若いのがいただろ」

それほどたいそうな人物とも思えなかったが、と短く反論のように返す。正直なところ、bationの印象には残っていない。

「『印象に残らない』ってのはこの商売じゃあ武器にもなるんだよ。とはいえ証拠はない」

手際からしてそうとしか思えない、ということのようだ。

「そういう意味じゃお前も考えたんだがな。…お前はこういう悪巧みには向いてないよ」

bationは黙って耳をかたむける。
この商売をしていれば、嫌でも判る。
終わりが近いのだ。聞いてやらねばならない。

「……一丁前に気を遣いやがって………まぁそうだな、何か言うんだとすりゃあ…長生きしろよ」


…………


さて、困ったことになった。
bationは深く息を吐く。
死ぬ用も無いから生きていただけのことで、死ぬなら死んだ時のこと、別に長生きしたいなどとは思っていなかった。いなかったが、

「年寄りの最後の頼みくらい、聞いてやらんとな」

自問する。

「突破は……無理だろうなぁ」

となると生きるためには殺るしかない。
拳銃を握る。
昔からのルーティンのようなもので、どういうわけか銃を握ると別人のように機敏に動けるのである。
独白する。

「…仕事以外では初めてだなぁ」

これまでそこは一線を引いていたつもりだった。
「そこ」を超えたら、もう殺し屋でも何でもない気がしていた。

「…まぁ仕方ないか」

強いて言うならこの瞬間。
彼は死なない男の、その最後の言葉の奴隷になった。


「よし、そろそろ到着するぞ」

操縦席の若い男が言う。
返事を返すものはいない。

「おい、ちゃんと聞いてるのか」

「……聞いてるよ」

「…今回の仕事の重要性はキチンと分かってるんだろうな。時空間更生プログラムはTPから例外的に認められている過去への介入だ。失敗は許されないんだぞ」


ー時空間更生プログラムー
未来において発生する出来事に対して、被害を最小限若しくはゼロにするため過去に介入して意図的に歴史改変を行う。
介入する時代、対象、介入方法などはAIによる時空改変予測により、改変の影響を最小限にするべく厳格に管理される。


「分かってるよ。でもその子供が将来同級生の女の子と結婚するように仕向けるだけだろ」

ほとんど子守じゃないか、というのが本音である。

「だから君が選ばれたんだろう。こんなことに軍用ロボットなんて突っ込めないからな」

「正しくは軍用ロボットで失敗したんだろう」

操縦席の男は渋面にはなるものの、それ以上なにか言い返すでもなかった。

殺し屋として名を馳せたbationは、その経歴の大半が謎に包まれていた。彼自身が念入りに抹消したのだろう。分かっている僅かなことと言えば、ある時期を境に依頼と無関係に人を殺すようになったということだけだった。
最終的に彼の手にかかった犠牲者は数千に上るとも言われており、当初時空間更生プログラムでは彼が依頼をこなす「殺し屋」であるうちに軍用ロボットを投入して殺害することを想定していた。
結果として殺害は失敗。プログラムの実行部隊は壊滅的な被害を受け、さらには彼が殺人鬼として活動する期間を早めることになり、犠牲者は更に増えることとなった。

しかし、ここで状況が大きく動く。
殺害には失敗したものの、プログラムのために潜入していたエージェントによってbationの細胞を採取することに成功。謎に包まれていたbationの素性が明らかになったのだ。
それにより、bationがまだ無力である少年のうちに殺害する計画が立案されるが、その後の調査により計画の見直しが図られる。
にわかには信じがたいことだが、bationは少年期に関わった複数の事件において地球規模、或いは惑星間レベルの被害を食い止めていた可能性が浮上。
事実確認と経過観察も計画に盛り込み、エージェントが常駐でプログラムにあたることとなった。

「話を盛り過ぎだな」

小学生のうちに地球を救ったことがあり、その後裏社会の暗殺者を経て人類史上最悪レベルの殺人鬼になる。
誰が信じるのか。
時空間更生プログラムの運用の中核にあるというAIも底が知れるというものだ。
とはいえ殺し屋、殺人鬼であったのは間違いない。
同級生の少女をあてがえばそれを防げるというのなら、その少女には気の毒だがこちらの意向に従ってもらうまでだ。

「着いたぞ。準備はいいな、ドラえもん

「任せとけよ、セワシ


あとがきのようなもの

数年前ですが、ネット上で見かけた書き込みがあります。
ディテールは忘れましたが、ホントならのび太は殺し屋になってたんじゃないのかみたいな内容でした。
まぁ殺し屋かどうかはともかく、ドラえもんの世界観にはタイムパトロール(TP)という存在が描写されてるのにどうしてドラえもんの存在は見過ごされているのか気になりました。

これについては同人で「実はのび太ドラえもんの開発者だ」というものもあって、それはそれは良い作品でしたが。

じゃあそうではないケースの時に、なんというか「のび太を放し飼いにしないために」ドラえもんが派遣されたとしたら、という考えから妄想が始まりました。

このあたりのことについては色々な考察も成り立ちますので、飽くまで一つの妄想として笑って頂ければ幸いです。

最後に、bationという名前は作中でのマスターという呼び方のネタだけでなく、言うまでもなくのび太アナグラムですが、のび太は一日12時間寝る(=昼前なのに二時間寝たりない)奴隷じゃない(=ジャイアンがかーちゃんに言うヤツ)など、ちょっとした小ネタもありますので暇な方は見てみて下さい。
※だいぶ苦しいヤツも多いので答え合わせはありません。



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☆舞台化
id:amidamさん
多分それマイですね。
ブルマは平野綾さんでした。
※文句言う割にはしっかり覚えてる。

まこっちゃん(id:vn4r9x)さん
ぶ、舞台の可能性を信じましょう!

id:kojikoji75さん
嬉しいお言葉、ありがとうございます。

ぐり(id:greengym)さん
出来るならその媒体になったからこその「味」を出してほしいなどおもいますね。

id:i__noさん
昔アマチュア演劇やっていたのだ、舞台については寛容なつもりなんですけどね。